交通事故損害賠償においては「素因減額」という項目が存在する。交通事故の被害者が交通事故に遭う前に「素因」として心因的素因、身体的素因、疾病を有しており、その素因が事故による損害発生あるいは損害拡大に影響した場合、損害をどのように評価するべきか、これが「素因競合」による割合認定の問題、すなわち「素因減額」の問題である。本発表では、それらの判例を中心に発表したいと考えている。
東日本大震災からの6年が経過した現在の交通体系の復興状況の報告。特に、鉄道での復興を断念した気仙沼線の現状を報告する。
JR北海道は2016年11月に営業距離の半分を「単独維持困難」として事実上の廃止を宣言した。一方で新幹線や高速道路は「便益」で評価されて事業が進められている。在来線が産み出す社会的便益を検討し、JR北海道だけでなく全国の鉄道ネットワークを維持する方策を提言する。
盲導犬を伴った視覚障害者がホームから転落する事故が報道されました。近年、障害者の鉄道利用への理解は以前よりは改善していますが、今も右写真のような誘導ブロックの設置をみかけます。このような表示は現実的でしょうか。
鉄道会社は、危険な場面を見かけたら「盲導犬を連れた方、止まって下さい」と声をかけるようにと利用者に呼びかけを始めましたが、転落はほんの数歩のタイミングで発生します。現実にそんな声かけが可能でしょうか。
いまラッシュ時でさえホームに駅員の姿は希です。利用者の行動を求める前になぜホームに安全要員を配置しないのでしょうか。
また意図的な人身事故の防止は難題ですが、一旦発生すると利用者や鉄道関係者にも負担が及びます。JR東日本の安全研究所は駅員の目が届かない条件で人身事故が発生しやすいと分析して報告をしています。
長年にわたり視覚障害者が安全に鉄道を利用できる権利を 主張し、点検活動や国土交通省・鉄道事業者等とも粘り強く交渉を続けてこられた山城完治さん(東京視覚障害者協会)と、現場で勤務する小黒裕さん(国労高崎地本運輸協議会議長)のお話を聞きながら視覚障害者の安全な鉄道利用を考えます。
フランス都市交通の基礎資料となる、CERTU(運輸・都市計画・公共事業研究センター)による「Urvan public transport in France」は、このほど2003年度版を改訂する2013年度版が新たに刊行された。本発表ではこの2013年度版に基づき、フランスの地方都市公共交通の最近動向を報告したい。
東日本大震災やその他の災害で被災し、被害の大きかった鉄道路線は、長期運休を余儀なくされた。被災路線の中で被害が比較的少なかった路線や輸送密度が高い路線等は、順次復旧したものの、輸送密度が少なくかつ被害の大きかった路線については対応が分かれている。しかし、輸送密度が低くても鉄道として復旧を果たした路線があることもまた事実である。本報告では、JR旅客会社の被災路線に焦点を当て、「ステークホルダーアプローチ」に基づいて、復旧に向けた国の支援のあり方にアプローチする。
最近「自動運転車」が注目され、2020年までの実用化も提唱されている。しかし技術的・制度的な検討が不備なまま路上走行が拡大してゆくと、特に歩行者や自転車に対して新たな危険性が発生するおそれがある。またこうしたシステムは自動車メーカーの利権の側面が強い。また飲酒運転防止のためアルコールインタロック装置を提唱する意見があるが、逆に「飲酒運転許容装置」として作用する危険性についても指摘する。
普通列車は、夜行列車となるものを除き、各駅に営業停車することを原則としていますが、1980年代ころまでは、普通列車が一部の駅を通過するいわゆる例外通過の例が全国各地で見られました。趣味的には大変面白いものですが、利用者にとってはわかりにくく不便なものでした。ではなぜ、例外通過を行なう普通列車が、存在したのでしょうか? 例外通過する必然性はどこにあったのか、当時の時刻表などから該当する駅を選んで、通過駅の形態分析を試みたいと思います。
自賠責保険は正式には「自動車損害賠償責任保険」であり、昭和30年12月に任意契約を開始したことに始まり、後に強制保険となる。当保険は「自動車損害賠償保障法」によって運用されている。その中に当て逃げ事故や自賠責を付保していない無保険車が加害者になった事故の場合に「政府保障事業」という制度がある。ここでは余り知られていない「政府保障事業」について制度、支払い件数等について調査・研究した成果を発表したい。
交通権の要素として災害時の避難・救助が挙げられている。2015年8月に川内原発の再稼動が行なわれたのを初め、各地の原発で次々と再稼動が準備されているが、住民が被爆せずに避難できるかどうかの検討は置き去りのまま再稼動が先行している。2014年の検討で迅速な避難が困難であることを指摘したが、その後の国や自治体の対応の変化について整理し、改めて原発と避難の問題を考える。
「交通権憲章」においては第2条で「安全性の確保」として「人は、交通事故や交通公害から保護されて安全・安心に歩行・交通することができ、災害時には緊急・安全に避難し救助される。」とし、交通政策基本法においても第7条に「交通の安全の確保」として規定している。しかしながら交通権の阻害要件としての交通事故は減少しているものの皆無ではない。本報告では人身事故のうち余り知られていない「後遺障害」について基本的な規定から、その認定の数量分析、損害賠償の実態につき言及してみたい。
横浜交通まちづくり協議会は交通やまちづくり、環境問題に取り組む市民が集まり、だれもが移動しやすい交通の実現をめざしています。公共交通推進と福祉有償運送に取り組む団体が共に活動していることが大きな特色です。2012年から横浜市とタクシー協会が普及をめざしているユニバーサルデザイン(UD)タクシーに注目して、広報面で協力しています。介護タクシーとは違うUDタクシーの可能性と課題について報告します。
フランスの地方都市における公共交通は、事業権委託制度に基づき民間運輸事業者が大きな役割を果たしてきた。しかしながら、1970年代の経営改革を契機として、交通税による財政補助、地方自治体による関与が始まり、国による法制度の対応、地方分権政策の推進を経て、地方自治体の責務が位置づけられ、現在の枠組みが確立した。その過程において、公共交通における民間運輸事業者は、独自の地位を保ちながらもその役割は変質していった。わが国に対する示唆として、公共交通の経営環境はフランスの1970年代に類似点があり、地方自治体の責務及び国の適切な関与の必要性を明らかにした。
LED照明の道路照明への利用は省エネルギー性能、経済性から検討されている。既存研究から光源の違いが視認性に影響を与え、視認性が事故率に影響を与えることが明らかになっている。また近年、都市内交通としてLRTが見直されてきている。LRTによる温室効果ガス排出抑制等の利点も示唆されている。そこで本研究では、交通需要マネジメントの視点から道路照明とLRTの2つの手法により都市内環境の向上を明らかにすることを目的とする。
福島第一原子力発電所の事故が発生してから3年余が経過し、避難生活が長期化している。この事故による避難者が暮らす地域はすべての都道府県に及んでおり、過去に例のない広域災害となっている。そのため、従来の枠組みに捉われない研究が現場から求められている。本報告では、避難者の日常生活の中で現在起きている問題を、「避難先内」及び「避難元と避難先の間の移動」という二つの視点から読み解く。特に、公的な支援が極めて乏しい「自主避難」を中心として、報告者の聴き取り調査に基づく知見を報告し、交通権との関連を議論したい。
今年は宇沢弘文氏の『自動車の社会的費用』刊行から40年にあたる。また昨年は長年の紆余曲折を経て交通政策基本法が成立した。交通政策は単に交通手段の選択の問題ではなく国土利用計画やマクロ経済政策との関連で考えなければならない。今回は「交通政策基本法における交通の捉え方」「国土のグランドデザインと交通」「リニア新幹線問題」「交通と環境・エネルギー問題」「国土強靭化政策と交通」等から交通研究の課題を提案したい。
東日本大震災で他のインフラに比較して鉄道はその復旧のスピードにおいて大いに遅れていた。その間の問題に関してはすでに、拙稿「三陸鉄道とJR東日本路線の被害復旧と公共交通としての再建課題」(交通運輸政策研究会『調査報告書 被災地の交通再建の現状と課題』同研究会、2012年7月、17~34ページ)で明らかにしてきた。しかしながら、その後、JR気仙沼線、JR大船渡線ではBRTでの「仮復旧」が進行し、他方では、2014年にはいってJR東日本からJR山田線の三陸鉄道への移管が提案されるに至っている。本報告は、この移管案の内容と論点について、3月12日・13日に実施した宮古市役所、三陸鉄道、東北運輸局へのインタビューを踏まえて分析することを目的としている。しかも、上記の拙稿でJR山田線などの第3セクター化を提案しているので、研究者の社会的責任もあるとも考えている。
高齢化社会の到来により、高齢者の交通事故は大きな問題であると考えられる。そこで本発表では、高齢化社会と交通事故、そのなかで高齢者が運転して発生する運転事故に限って考察して見たい。具体的な内容として、(1)交通事故の現況、(2)高齢運転者の現状、(3)高齢者事故の現状、(4)高齢化の医学上の問題、(5)高齢者の運転と交通権の問題について考えてみたい。
国鉄分割民営化以降、JRグループ間の経営格差の拡大や地方交通線問題の深刻化が進むとともに、夜行列車の退潮も顕著となっている。夜行列車は就寝時間帯を移動時間に活用することで、朝から目的地で活動を開始することができる利用者利便を図るだけでなく、夜行列車沿線の活性化をもたらす効果も発生させている。本報告では夜行列車の収支を試算するとともに、「ステークホルダー・アプローチ」に基づいて夜行列車を活性化させる試みを提示してみたい。
本報告では、まず発表者が現在調査を進めている、宮城県大崎市における新しい公共交通(デマンドタクシー)の導入過程を紹介する。そのうえで、本事例が持つ特徴・問題点を分析し、それが今後の交通不便における公共交通の導入・維持を考えるうえで、どのような意味を持つのかを、他の事例との比較、高齢者福祉、公共性(『公共』交通である必要性)などの観点から論じる。最後に、今後の研究の方向性について簡単に報告する予定である。
2020年夏のオリンピック大会の開催地が「東京」に決まったことで「1964年時の東京」との鉄道整備の相違点を考えてみたい。それは、現在具体化した新線計画は皆無であるものの、ここに至って少し動きが出てきたことだ。しかし、大切なことは、オリンピックのために造るのではなく、その後も必要で、維持できるものか否かであろう。そして「日本において、東京の今後はどうあるべきか」という中での、充分な精査が必要と考える。
災害時における緊急・安全な避難は、交通権憲章でも交通権の一要素として位置づけられている。一方で原子力規制委員会は2012年10月に「原子力災害対策指針」を策定し、その中に原子力緊急事態における住民の防護措置について記載している。しかしその内容には不備が多く、多くの周辺市町村では今も住民の避難計画を策定できていない。本報告では主に同指針を対象に、交通権額的観点も加えて、住民の緊急・安全な避難が可能なのかを検討する。
※10月26日開催予定でしたが台風の影響で延期しました。
「旅と鉄道」記事の「昭和53年のブルトレブーム」~大挙してホームに押し寄せた小・中・高校生によればブームの中心になった少年たちが住む社会は「個性や多様性をいまほど重んじていなかった。そうした息ぐるしさのなか少数派に追いやられながら異彩を放つブルートレインに引きつけられた」という。少年たちの行為は、今日では、鉄道運行・乗客の安全への妨害行為とみなされる。こうした行為がブルートレインという文化として認知された背景、文化の原動力となった社会背景について考えて見たい。
「ブルートレイン」と呼ばれる寝台列車が、いまや風前の灯火である。その嚆矢であった東京~九州間に既にその姿はなく、現在も残るのは、東京から北をめざす「北斗星」と「あけぼの」、そして青森~札幌間の「はまなす」のみである。これは車体の塗色の「ブルー」にこだわるからであって、それ以外の「トワイライトエクスプレス」と「カシオペア」寝台電車の「サンライズ瀬戸・出雲」も加えなければ、意味のない考察となろう。このうちの「あけぼの」が2014年3月改正で消える模様であり、2016年春に予定される青函トンネル内の新幹線走行時には、ここを通過する「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」「はまなす」が重大岐路に立たされている。そうなると残るのは、「サンライズ瀬戸・出雲」だけということとなる。かつては普通列車にも多数存在した、「夜汽車」などの言葉も聞かれなくなってしまった。この背景は、言うまでもなく、新幹線の延伸であり、航空機や夜行高速バスの台頭、それにそれを取り巻くさまざまな社会環境の変化である。このあたりの経緯を徹底的に考察してみたいと思う。
JR東海は2013年9月に「中央新幹線環境影響評価準備書」を公表し、リニア新幹線の計画概要が公式に提示された。また2011年5月に交通政策審議会・中央新幹線小委員会は答申を提出し、中央新幹線の営業主体及び建設主体はJR東海が適切であるとの評価を与えている。しかし、JR東海及び小委員会が独自に行なったとされる需要予測はいずれも過大推計であり、リニア新幹線事業とJR東海の経営に重大な支障を及ぼす可能性があることを指摘する。
昨年公表された2010年度道路交通センサスの全国市町村別集計データ等を用い、地域別自動車依存度を定量的に検討する方法について報告する。とくに、次回大会の統一論題で扱われる予定の埼玉県内について、東京都市圏PTや2010年国勢調査なども合わせた分析を行い、研究上の課題も含めて討議したい。
前回発表した「上野裁判を支援する会」の中で大きな役割を果たしたのが、埼玉県立盲学校(現・埼玉県立特別支援学校塙保己一学園)の教職員や生徒達である。同校の女子生徒が1974年5月2日、下校途中の大宮駅でホームから転落し死亡した事故が発生したことから、多くの人びとが、いわば「弔い合戦」として、上野裁判の支援に取り組んだとされる。また、事故を風化させないよう、記念の鐘を設置する取り組みも、同時期に行なわれた。
現在も、埼玉県立特別支援学校塙保己一学園では、事故が発生した5月2日を「安全の日」と定めて全校生徒に対する安全教育を行っているほか、街頭で点字ブロック上に物を置かないように市民に呼びかける活動を行なうなど、視覚障害者が安全に歩けるまちづくりをめざす取り組みを行なっている。
今回は、同校の取り組みについて、当事者からの聞き取り調査をもとに、当事者が訴える安全に歩けるまちづくりの取り組みについて報告する。
【2012年度研究奨励基金助成研究報告】2000年3月の鉄道事業法改正により、旅客鉄道事業の退出は、従来の許可制から、原則1年前の事前届出制に緩和され、以降鉄道路線の廃止が続出した。これまでの鉄道廃止の事例のほとんどが、営業損失の継続を廃止理由としている。一方、営業損失の継続による廃止への危機を乗り越え、存続を果たした路線もある。不採算路線について費用対効果分析が実施され、社会的便益が会計上の営業損失を超えると判断された結果、行政より補助金投入がなされて、鉄道存続が実現している場合がある。本報告では、不採算鉄道の費用対効果分析の事例を取り上げ、社会的便益が営業損失を超える場合に、鉄道存続のために行政による補助金支給が正当化されることを明らかにしたい。
2012年12月の民主党政権破綻であるが、こと「交通政策」に関しても、迷走に次ぐ迷走であった。いわゆる「高速道路の無料化」という施策でも、国土交通大臣ばかりでなく、首相ですら不適切な発言が相次いだ。結局は東日本大震災の影響から廃止となったものの、その混乱が投げかけたものは大きい。よって、この顛末と、「コンクリートから人へ」のスローガンにもかかわらず、整備新幹線の新規着工を認可した件など、民主党政権を総括してみたい。
1973年2月1日、日本国有鉄道(当時)山手線高田馬場駅で、全盲の上野孝司さんが混雑するプラットホームから転落。はい上がろうとしていたところを電車とホームの間に挟まれて死亡した。遺族は、その死の責任が国有鉄道の施設の不備にあるとして国家賠償請求訴訟を提起し、広範な支援の許、一審で原告勝利、二審では国有鉄道の責任を一定に認める和解を結んだ。この障害者運動の高まりが、その後、交通バリアフリー法につながるといえる。この報告では、当事者の運動を受けて交通バリアフリー法が制定され運用される動きについて時系列でとりまとめ、考察する。
都市交通、ローカル地域交通、鉄道政策、都市・道路政策、交通事故、物流、防災、バリアフリー、環境対策等、交通権にかかわる問題は依然として改善をみない分野も多く、検討課題は多岐にわたる。また新政権発足にともない新たな様々な課題も提起されると思われる。最近の交通計画学に関する研究や公表資料をレビューし、交通権学会の今後の展開について考える。
明治5年(1972)9月12日(太陽暦10月14日)に明治天皇の臨御のうえに開業式を挙行したのが鉄道の最初とされ、この時から140年を迎えた。翌日から新橋~横浜間に1日9往復の列車の運転が開始されたが、これより先同年5月7日(太陽暦6月12日)に品川~横浜間に2往復を運転したのが最初である。それへ向けて鉄道の規則である「鉄道略則」と「鉄道犯罪罰則」が制定された。公共交通である「鉄道」の最初の規則に「交通権」を考えてみたい。
経営思想家P・F・ドラッカーは、20~21世紀を産業社会と呼び、それは個人にとって社会的な位置と役割がなければ自由は存在しえない社会と述べた。今日、鉄道事業者は総合サービス事業を標榜し、地域産業の育成、まちづくり、雇用の創出といった、様々な次元で我々の社会的な位置と役割(自由)を規定するようになった。その規定がもたらす自由への影響をドラッカーの理論を援用しながら試論する。
東京圏、大阪圏、および名古屋圏の通勤・通学時間帯における鉄道では、都心部へ向かう列車が満員(「満員電車」)になる光景が平日の毎日繰り広げられている。実際、東京圏では乗車率200%を超える路線・区間が存在し、まさに「痛勤・痛学」を余儀なくされているのが現状である。こうした「痛勤・痛学」を避けて、豪華な内装を備えた車両を使用し、速達性を高めた特急列車や快速列車である「通勤ライナー」が多くの路線で運行されている。本報告では、「通勤ライナー」料金が着席料金と速達料金から成り立っていることを明らかにした上で、特急料金設定が鉄道事業者の採算性にどのような影響を及ぼすのかについてシミュレーションを実施し、鉄道事業者が取り得る速達列車マネジメントについて議論したい。
自動車交通の安全性は交通事故の発生によって計測される。この自動車交通における交通事故を戦前の昭和元年から21年までの資料から展望してみたい。戦前は自動車の台数が少ないにも関わらず、交通事故が発生していることが分かる。その後、戦後の交通事故に関してその推移を展望し、それぞれの局面を検討してみたい。最後にこの10年間の交通事故の推移を展望し、統計数値による分析を試みたい。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、鉄道も甚大な被害を受けた。被災地からは、鉄道復旧の費用負担には多くの困難があることが報じられている。また、「復興の起爆剤」として高速道路建設を推進する動きも顕著にみられる。本報告では、これらの先進事例として、長崎県島原半島を取り上げたい。まず、噴火災害後の島原半島の状況を、「地域社会の復興」というテーマを軸にして、分析する。そして、この事例の教訓を他の事例で活用するにはどのようにすればよいのかを、ご参加の皆様と共に議論したい。
鉄道の新線開業や路線延長には多額の建設費がかかる。鉄道事業者が、新線建設による建設費や維持費を利用者に求めることができる制度として、通常の普通運賃に上乗せする加算運賃制度が認められている。しかし、建設費の回収状況に関する情報開示はほとんど行なわれていないばかりか、加算運賃はほとんどの場合長期にわたって継続されているのが現状である。本報告は、鉄道の加算運賃制度の現状と課題について考察するものである。
2012年という年は、日本において新規に開業する鉄道・軌道が皆無である。しかも、この状態は2013年、2014年も続く見込みである。さらにこれは2011年3月以降から始まっているので、4年間も続くのである。こんな状態はかつてあったであろうか。実はほぼ、1872年の鉄道創業以来といっても過言ではないのだ。空白であった年は初期の3年(1873・1878・1881年)のみなのである。すなわち、戦中も戦後まもなくも含め、毎年毎年連綿と開業が続いていたのだ。この実態と背景に迫ってみたい。
電気自動車・プラグインハイブリッド車等の普及が推進されているが、一見環境に良いとされるこれらのシステムには原発の推進につながる要素が指摘される。一方、自動車重量税減税などさらなる自動車交通を促進する政策が実施される一方で、ダーバン会議における日本の京都議定書第二約束期間放棄など公共交通の活用やモーダルシフトの根拠は薄れつつある。事実上、自動車の販売促進政策となっている国内の交通環境対策について検討する。
東日本大震災からすでに9ケ月を経過した。本報告では、電力や道路などの他のインフラに比較して鉄道の復旧が大きく遅れていること、三陸鉄道とJR東日本では再建姿勢において対照的であること、地域鉄道の再編成が必要であるという視点から、被災地における鉄道の再建問題を試案的に論じることを目的としている。
人が生まれもっている交通手段は歩行である。交通権には「歩行者の交通権」も含まれる。しかしながら、歩行者は法的規制を意識して歩いていない。そこで「歩行者の交通権」を考えるにあたり、「道路交通法」ではどのように規制されているのかを法文で明らかにしたい。
具体的には「第2章 歩行者の通行方法」を中心に歩行者の法的規制を検討したい。その後に、平成22年の統計により現在の歩行者の交通事故の実態を明らかにしてみたい。
地方私鉄の乗車人員は、接続するJR旅客会社や大手私鉄の路線の利便性に大きく左右されることがある。昨今、十和田観光電鉄が存続の危機に陥っていることが報道されている。
東北新幹線の開業に伴い、接続する旧JR東北本線三沢駅への特急の発着がなくなり乗車人員の減少が加速したと言う。本報告では、地方私鉄とJR旅客会社・大手私鉄の連携を強化することによって、地方私鉄のみならず、JR旅客会社・大手私鉄の乗車人員も増やす“Win・Winの関係”を実現する方策について議論する。
最近の土木学会・土木計画学研究発表会の報告テーマを一覧し、交通権との関連を考え、交通権との関連を考え、交通権の具体化に必要な研究課題や手法について検討する。自治体行政と地域交通・災害時の交通や情報提供のあり方、まちづくりと総合交通政策、家庭・エネルギー部門における低炭素政策、地域モビリティ確保における住民参加、交通のQOLの関連、子育てしやすいまちづくり、コンパクトシティ等のテーマを取り上げる。
フランスの地方都市圏においては、フランス国鉄の地域圏輸送、都市公共交通で運営・管轄が分かれているが、広域行政組織の活用により、運営・管轄の相違を超えてドイツの運輸連合のような広域的レベルで統合化された枠組みを目指す動向がある。本研究では、フランスにおける運輸連合を目指した制度的変遷、その全体像を整理するとともに、トラム・トレインの整備事例を通じて、広域交通連合の意義と課題を整理することを試みる。
交通権学会研究奨励基金からの助成(2010年度)を受けている研究の中間報告を行います。報告者は一昨年から公共交通へのアクセス度を軸とする指標開発に取り組んでおり、これを進展させつつ、具体的な地域に適用して分析しています。
もう半世紀近く前、路面電車廃止と地下鉄新線建設という風潮が欧米や日本に到来した。 そのとき、将来は本格的な地下鉄にするが、当面は地下鉄に高床と低床の乗降場を併設し、第3軌条の既設地下鉄トンネルに、架空線の路面電車を乗入れさせ簡易地下鉄路線にするBrussel方式が提案され、まだ運行している。日本は法制上、鉄道と軌道の別、地下鉄の火災対策基準等や信号保安設備の面で制約が少なくないが、地下鉄新線建設が一段落した今日、地下鉄の培養線として既設鉄軌道との連絡線、公共交通欠地域への小規模延長線に、LRT/BRTのプレメトロ的導入が考えられよう。
社団法人日本損害保険協会から、2008年(平成20年)4月から2009年(平成21年)3月までの自動車保険の支払いデータをまとめた『自動車保険データにみる交通事故の実態』が発刊された。当報告書では人身事故の損失だけでなく物損事故の損失についても保険金データにより、直接的に発生した「経済的損害額(ロスコスト)」の全体像を把握している。さらに年齢別・受傷部位別等の分類により、加害者・被害者の特徴、被害者の損傷状況と死亡率などの関係なども把握できる。これらについて報告したい。
わが国の交通機関における、女性専用車(女性専用席等を含む)の実施状況。(海外のものについては、正確な調査が困難である事、また治安や宗教上の理由もあり単純には比較できないので、現時点では調査や発表する予定はありません。)
・警察を呼んで強制排除に及んだ、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)に対する発表者が申し立てた民事調停について
・琉球バス交通がこの9月から始めた、「倶志川線」女性専用車の波紋
交通基本法案には「健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な移動」との文言がある。しかしそれが具体的にどのような状態を指すのかについて、法案にも具体的な記述はなく議論もされていない。交通権の保障を実際に政策化してゆくためには、数値的な指標や、費用対効果の分析が不可欠である。どのような検討を行えばよいのか関連研究のレビューに始まり研究ノートとして提起したい。
地方自治体は、公共交通のトータルプロデューサーになることが求められている。しかしながら、現実には、地方自治体が公共交通を担うにはほど遠い現状がある。また、民主党政権下で「地域主権」が展開されようとしている。報告者がこの3年間にヒアリングした自治体の様子などから、主に地方財政の観点、担当職員の問題の2点について考えるとともに、民主党「地域主権」政策は、真に地域主権をもたらすものなのだろうか。「地域主権」政策について批判的検討を加えたい。
民主党新政権による高速道路無料化の方向は、カーフェリー、鉄道、高速バスなどの業界に激震をもたらしている。航路は廃止も続出している。また、離島への航路、航空路も、その維持が人口減少および財政難などから次第に困難になりつつある。北海道、本州、四国、九州という主要4島と420余の有人島からなる日本であるが、これらを結ぶ「海越えのアクセス」について、橋やトンネルも含め、その現状と今後の展望を徹底的に考察してみたい。
「女性専用車」は男性を一律に締め出すものであり、「男女平等」に反する‥と思いませんか? ところが、鉄道事業者を問い詰めると、「法的強制力は無く、あくまでも任意の協力であり、男性の乗車を禁止した訳ではない。」と「逃げ口上」を並べます。このように、任意性を隠して「男性の乗車は禁止されている」と「勘違い」させなければ成り立たない「女性専用車」について、「交通権の侵害」という観点から、皆様のご意見を伺いたいと思います。
国交省から交通基本法の中間整理が発表され成立に向けて動き出している。基本法には交通権に関する事項が既に盛り込まれ、反対する内容はない。しかし基本法には抽象的な記述しかなく、現実の交通政策への展開や既存法との関連など、今後に多くの課題が残されている。こうした状況を受けて、交通基本法を活用し人々の交通権保障に向けての研究面ではどのような支援が望まれるかを提案する。
現在、都内の地下鉄は東京メトロと東京都の二事業者により運営されているが、今これらを統合しようという議論がなされている。特に、東京都副知事の猪瀬直樹氏が積極的に推進している。本報告では「歴史」「運賃」「財政」の3つの観点からこの問題を検討する。「歴史」ではなぜ東京の地下鉄は二事業者で運営されているのか、「運賃」では、事業者二つになることで生じる利用者の不利益とは何か、「財政」では両社の経営状況の違いは統合にどのような影響があるのかについてそれぞれ論じる。
2009年7月の研究大会で報告した「公共交通アクセスビリテイ」を指標化する研究について、その後の進展を報告します。全国の市町村について初めて概算算出をおこなったこと、路面電車がある都市の結果を分析して各都市の特徴を定量化できたこと、等です。
新政権の交通政策として、高速道路無料化、自動車関連税制の変更が提案されている。その一方で「交通基本法」の制定も検討されている。こうした状況を受けて(1)高速道路無料化に関する定量的評価、(2)交通基本法の現状と諸論点、(3)これらを受けた研究課題について報告する。
交通権の阻害要因である自動車交通事故の最近の動向を見たいと思います。平成20年では事故発生件数、死者数、負傷者数ともに減少しています。特に死者数についてはピーク時の昭和45年の16,765人の30パーセントである5,155人まで減少し、第8次交通安全基本計画の目標値5,500人を2年前倒しで達成した。しかし、昨年から「歩行中」と「自動車乗用中」の死亡率の割合が逆転し、その原因など厳罰化、取締の強化などで追究したいと思います。
近年の交通環境の大きな変化により、全国的に都市の近郊への大規模な商業施設の進出が見られ、その反面では中心部が「シャッター通り」といわれる深刻な衰退状態にあります。それはまた、かつては小売業の王者を誇っていた「百貨店」の衰退でもあり、地方の老舗の経営破綻、大都市部でも業種転換や閉鎖、大手同士の経営統合と、話題に事欠きません。その動向および背景を全国縦断的な具体例とともに見ていきたいと思います。
地球環境問題から貨物輸送でもトラック輸送から海運、鉄道輸送への転換を図るというモーダル・シフトの必要性が提起されてきた。しかしながら、鉄道貨物輸送の中心であるJR貨物は、到底、それを担えるような経営基盤を有していないし、また、政府も、本腰を入れて、JR貨物を支援するに至っていない。本報告では、こうした現状に至った経緯を分析すると共に、JR貨物が果すべき役割を展望する。
当地の踏切は4年前、踏切保安係の遮断機操作ミスにより死傷惨事が発生したのを機に自動化された。ところが自動化後には、安全確保上の必然性が認められない、必要以上に長すぎる遮断時間のため「開かずの踏切」問題がいたずらに深刻化されている疑いが、極めて強い。東武鉄道による現状の踏切制御方が適切かに係る技術面での検証のほか、関東運輸局の対応方への疑問点などについても、参加者の意見を求めたい。
7月の研究大会で報告予定の「自治体別・公共交通アクセシビリティ指標」について、(1)基本的な考え方を示し、(2)算出に必要な諸条件を整理し現時点の課題を報告します。(1)では、この指標が、既存の様々な定義や目的で作成されてきた「アクセシビリティ指標」とどう異なり、何をめざしているのかを示します。(2)では、指標算出の前提となる諸条件、例えば「公共交通にアクセス可能な地域」を具体的にどう数量的に定義するか、等の処理を示すとともに、算出に向けた準備状況と課題を報告します。
交通権がどこまでの領域をカバーするかという問題は、その都度検討すべき問題である。本報告は、近年になって本格的にその産業政策的重要性が社会的に広く認識され、取組みが行われてきた観光分野について、交通権とのかかわりについて検討してみたい。
本報告は、鉄道存続運動が正当性を獲得するまでのプロセスを対象とする。鉄道の存続には莫大な費用がかかることもあり、鉄道廃止問題が発生した地域の住民は「あきらめムード」になってしまうことも多い。また、鉄道存続の大義名分を周囲に説明することに苦労するケースも見られる。
では、鉄道存続運動が正当性を獲得していくためにはどのような方法が有効なのだろうか。そもそも、鉄道存続運動が正当性を獲得することが困難な背景は何なのだろうか。
事例(島原鉄道南線存続運動など)と当事者の声をもとにして議論したい。
地方公共交通の衰退が叫ばれて久しい。この間、その空隙を埋めるべく、様々な取り組みが行われてきたが、なかなか目だった成果を挙げるまでには至っていないようだ。しかしながら、こうした実践の積み重ねの中から、ノウハウを蓄積し、全国モデル足りうる事業展開を模索していくことは極めて重要なことである。こうした観点から、現在富山県の大沢野地区で行われているシルバータクシーの取り組みについて紹介し、その意義と今後の課題について検証する。
2008年はGM、フォード、クライスラーにとって「百年目」です。米国の産業構造変化の中で石油と自動車の相互関係にも注目しながらいくつかの問題点に触れ、オバマ大統領のビッグ・スリー救援策についても検討したいと予定しています。勿論トヨタ、日産などとの比較や相互関係についての討論を期待しています。
これまでの交通・環境・まちづくりの接点にある「通学路」に関心を持ってきた。小学校区という地域(明治22年に成立した旧村)がもつ地力の一つが通学路に表出していると考える。子どもが安全に安心して歩ける通学路には、人間形成力を秘めているからである。だが、私を含めた教職員は、その通学路に車を乗り入れてきた。このことの意味を自問することを通して「脱クルマ社会」への接近を図ろうと試みたのが、本報告である。「研究ノート」というものである。
自動車燃料価格の高騰と再下落、高速道路の無料化・値下げの提唱など、自動車交通の費用の変動がみられる。このことが鉄道・バスなど公共交通にどのような影響を及ぼすかを数量的に推定する。またこのことから、自動車から公共交通に転換を促進するにはどのような経済政策が必要かを検討する。
元来、外部電源方式によって電気車が運行されている鉄道を電気鉄道と呼び、蓄電池や原動機を搭載した電気車による電気運転では電気鉄道とされなかった。近年、蓄電池のみならず燃料電池の開発で、架線なしのLRTやバスそのものによる無軌条のBRTが実現し、都市電気鉄道やLRTにパラダイム・シフトが生起しつつある。ところが、現用されている電池の耐久・信頼性を勘案し、多数の短時間大電流充電所、その配電網整備を考えると、架線を通じ大規模発電所から給電され、軌条で案内されると共に情報を得て安全制御される電気鉄道式LRTの方が交通権は保障されよう。
いま、シャッター通りという言葉を耳にします。言うまでもなく、地方都市の中心商店街の衰退です。その反面、郊外には大規模なショッピングセンターなどが出現し、日本の商業環境は大きく変わりつつあります。これはモータリゼーション、道路建設一辺倒の国の政策、さらに人口の少子高齢化などが原因でしょうが、それはそのまま、地方の公共交通の衰退とイコールの関係でもあります。この背景を歴史的に徹底考察してみたいと思います。
鉄道や自動車に関する走行量・輸送量等の数量的統計はあるていど整備されているが、徒歩・自転車・二輪車についての、歩行量・輸送量に関するデータは少ない。移動時間あたり、輸送量あたりの事故リスクの比較や、自動車の社会的費用を推計するためのバックデータ等、徒歩と自転車交通の定量化は、交通権の研究と、懸案の交通権の定量化に欠かせない課題である。今回の報告では、利用可能なデータを紹介し、いくつかの検討例を紹介する。
- 本テーマの討論内容は、学会全体の緊急シンポジウム(2007年11月10日開催)と重複することが有り得ますが、多くの人が多くの機会に討論・研究することにより、本テーマに対する認識が深められればよいと考えます。
- JR西日本「福知山線事故」については、「航空・鉄道事故調査委員会」の報告書が該当委員会ホームページに公表されています。航空・鉄道事故調査委員会
鉄道貨物輸送は環境対策の一手法であるモーダルシフトの担い手として期待されているが、これまでその主な担い手であるJR貨物を対象とした研究が中心であった。しかしながら、JR貨物の関連会社の臨海鉄道に焦点を当てた研究はあまりなされていない。そこで本研究では京葉臨海鉄道を対象として、利害関係者の共同利害による同社の生成および京葉工業地帯の重化学工業との関わりからみる同社の発展・限界についての考察を行った。
自動車交通を一つの要因としたスプロール化による中心市街地の喪失が危惧され、その再活性化が課題となる中、そもそもなぜ町には中心部が必要なのか、また街の賑わいを作り出す要因・都市の魅力とは何かという問題を、公共性、公共空間といった概念をキーワードに考察し、さらに自動車交通が街の賑わいに及ぼす影響を考え、街と自動車がどのように調和を図ればよいのか提案する。
特急列車の乗客全員のために設備されているはずのトイレ・カード式公衆電話・飲料自動販売機などが、車いす生活者だけが利用できない構造・位置関係になっている問題、また健常者であってもそこまでの往復に喫煙車の通り抜けが必要で受動喫煙を強要されてしまう問題などがどうなっているかについて、各列車への乗り込み調査を行った結果を基に、現状の問題点を指摘し今後のあるべき姿について提言する。
印刷用ページ